世界遺産条約が採択されたときに比べると、国境を超えた世界遺産、すなわち「トランス・バウンダリー・サイト」の登録が増えている。
果たして、この登録傾向の利点は一体何であろうか。
まず私が考える利点は、地域偏重の抑制である。
トランス・バウンダリー・サイトは複数の国にまたがって登録されるため、一方的な締約国への資産集中を抑えることができる。
例えば、2016年に世界遺産に登録された「ル・コルヴィジュエの建築作品」をとってみても、構成資産の中心であるフランスの他にも日本やインドなど、大陸間を行き来し、登録されている。
世界遺産において、地域偏重を是正するグローバル・ストラテジーが叫ばれているなか、このようなトランス・コンチネンタル・サイトの登録は、今後も積極的に登録を進めていく方が良いと考える。
しかし、課題も存在する。
それは、国境を超えた資産群ゆえに、維持なども難しい点だ。
例えば、先ほどの「ル・コルヴィジュエの建築作品」を例にとってみる。
これらは、大陸を超えた資産群であるため、登録後の保全管理も、大陸間を超えた連携が必須となる。これは、登録資産を有している国が多ければ多いほど、複雑化する。
また、自国のみの世界遺産の場合は、ひとつの管轄機関が対応する形だったが、トランス・バウンダリー・サイトの場合、それも異なるケースが出てくる。
日本も世界遺産の部門を取り扱っていたのは、文化庁であったが、今度は諸外国との連絡・調査が必要になってくるため、外務省の協力が必要になる。
また、日本の国立西洋美術館本館の登録推薦を促したのも、フランスからである。
以上のように、国境を超えた世界遺産は、世界遺産委員会から歓迎される登録形態ではあるが、そこに潜む課題も存在する。
途上国の場合、尚更難しいだろう。