Yu's Tea Room

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To enlarge education of world heritage for peace.

【レビュー】世界遺産―理想と現実のはざまで(著中村俊介)②

前回の記事はこちら

rissho-blog.hatenablog.com

 

対馬から韓国国内へ盗まれた仏像

・この事件を取り扱った韓国地裁の判決が話題に。

→韓国地裁の裁判官は、盗まれた文化財は中世のときに、倭寇(大雑把にいうと日本側)に盗まれたものだから返還する必要はないとの判決を下したのだ!

 

しかし...

元々「倭寇」が盗んだ代物なのか。そもそも盗まれた時期は正しいのか。

様々な時代考証が必要な事象なだけに、現代の司法で、過去の不確定な歴史を見抜けることはできない。

 

こういった時代錯誤の問題が絡む文化財の帰属はどうなるのだろうか...

 

・博物館や美術館等でも上記の問題性を孕んでいる。

文化財を故郷に返す意見は最もである。...が、所蔵していた遺物を博物館や美術館が失うことによって影響するデメリットも鑑みねばならない。

 

無形文化遺産

無形文化遺産世界遺産の最大の違いは"Outstanding Universal Value"(日本語訳は顕著な普遍的価値)の有無である。

 

世界遺産と同様に、無形文化遺産にも諸々の問題も発生しつつある。

→例えば、登録件数の拡大(対策として登録上限を設けている)と、無形文化遺産の審査による業務量の拡大である。

 

・地域の変容によって、無形文化遺産が無くなる可能性がある!?

(例:トシドン、ボゼ、パーントゥ

例に挙げたものは、どれも日本の信仰行事です。興味のある方は調べてみて下さい。

 

なぜ無くなりそうなのか...原因としては様々である。

①担い手の減少

②地域の過疎化

少子化

④ライフスタイルや価値観の変化

 

潜伏キリシタン関連遺跡は、長い道のりを経て、世界遺産に登録された。

 

世界遺産登録のため、(諮問機関や世界遺産委員会に伝わりやすい)分かりやすいストーリーを作るために、「かくれ」キリシタンに関する遺産を除外して推薦。

→「かくれ」キリシタンに関する歴史(項目)は重要なだけに、世界遺産登録のために切り捨てるようでは、世界遺産制度はデメリットでしかない。

 

・400年続いてきた潜伏キリシタンたちの風習も時代の流れとともに、綻びが見え始めている。(例:生月島

 

世界の記憶

・世界の記憶は、ユネスコの一事業で、国際条約ではないため、その権威は世界遺産無形文化遺産に比べて低い。

 

山本作兵衛の炭鉱史料が、初めて日本で最初の世界の記憶に登録されたことによって、国内でもその知名度の広がりを見せた。

 

・この"世界の記憶"事業も国単位による政治的恣意が絡んでしまう。

例えば、日本の地方自治体が推薦した日本の特攻隊史料(特攻隊兵士の遺物)は中韓から「戦争の美化」だと非難された。一方、中国が推薦して一度は登録された、南京大虐殺に関しては、日本側が猛反発する事態に。

 

・一方、地方単位の推薦では良い結果を生んでいる事例もある。

→日本のNPOと韓国の文化財団が協力し、様々な国情や歴史認識を乗り越えて、朝鮮通信使史料が世界の記憶に登録された。このような取り組みこそが、模範的な姿ではないかと筆者。

 

水中文化遺産保護条約

・韓国や中国では、水中遺産の調査機関が成果を出している。日本はその調査機関に該当する組織がない。さらに、水中遺産については知名度も低い。

しかし、鷹島沈没船の発見によって海底遺跡に対する話題を呼ぶ。

 

終章

世界遺産条約批准に日本が遅れた一説として、文化財保護法など、既に優れたシステムが確立されていたことが有力。世界遺産条約批准後は、日本の保護体制が世界遺産に段々引きずられるようになったと筆者。

 

・文化的景観は日本と世界でそのニュアンスが異なる。

 

面で保護するようなった現在の世界遺産の風潮では、文化庁のみで対応することは難しくなってきた。実際、明治産業革命遺産は、稼働中の遺産もあったことから、内閣官房が登録を主導していた。

 

世界遺産の中継地点である「日本遺産」の誕生。

・保護は保存に活用の要素が加わったもの。

 

・日本が世界に新しい文化財システムの見本を提示すべきではないだろうか!

 

感想

2回にわたり本書を紹介してきましたが、様々なトピックスから文化財保護の問題点を紹介してくれる本でした。

ユネスコの事業は、世界遺産が最大の成功とも言えますが、実際問題今は色々な問題が起きていますよね。それは、無形文化遺産や世界の記憶でもそうで、何かしら問題が発生してしまうのは、辛いですね。

日本もその問題を引き起こしてしまっていた当事者なわけですが、これからは文化財保護のグローバルスタンダードとして、世界を引っ張って行ってほしいですね!