世界遺産の枠組みは単なるリストアップに留まらず、保全のための仕組みを構築することが目標である。
そのため、世界遺産条約の締約国だけに各々の世界遺産の保護を任せるだけでは、不十分であり、モニタリングを行うことで世界遺産の状況を知ることができる。
以上の理由からモニタリングは必須の作業なのである。
具体的に、モニタリングは2種類に分けることができる。リアクティブ・モニタリングと、定期報告である。
リアクティブ・モニタリングは、危機遺産を対象に随時行われる。危機遺産リストの役割を機能させるために、世界遺産委員会が取り得る唯一の手段である。
しかし、近年では、危機遺産の所有国が調査に対して、非協力的であったりする場合が多く、調査が上手く進まないケースもある。
また、世界遺産委員会の議決に基づく必要があるために、、実施期間が限られ、かつ年一回しか実施できないという弱点が存在する。
これらの問題を受けて、10年前から強化モニタリングが導入されている。これはユネスコ事務局が、調査が必要だと判断すれば、議決を通さず調査を可能にすることである。
定期報告は、世界遺産条約履行の信頼性向上のため及び全世界の情報を集約し、地域間に存在する課題を浮き彫りするのが目的である。
定期報告の課題は、地域ごとに見つかった課題を全体で取り組む必要があること、調査結果を保全・活用に活かすべきことが挙げられる。
2015年にはISが世界遺産の破壊活動を行った事例もあり、モニタリングの重要性は益々高まっている。
潜在的に危機にさらされている遺産が多く眠る昨今だからこそ、全締約国が協力の姿勢を示さなければならない。
一方で、モニタリングを行う世界遺産センターの職員たち、諮問機関の職員の負担も鑑みねばならない。ユネスコの事業が増えた現在の状況に、諮問機関―特にイコモスの負担は大きい。この「人的課題」のケアも考えるべきだ。