モニタリング
Q.なぜモニタリングが必要なのか?
A.世界遺産の枠組みは単なるリストアップに留まらず、「保全のための仕組み」を意図している以上、各国の自主的な取り組みに依拠していては不十分なことが明らかであり、世界遺産委員会として、遺産の状況を把握するしてシステムが必要になるから。
モニタリングは2種類に分けられる。
- 資産ごと、必要に応じて随時行われるリアクティブ・モニタリング
- 一定期間ごとに、対象となる資産全ての情報を集約する定期報告
リアクティブ・モニタリング
・資産が何らかの脅威にさらされている場合に想定されており、世界遺産センターが諮問機関が行うものとされ、危機遺産リスト掲載物件の件について実施が想定される。
・つまり、危機遺産リストの役割を実際に機能するために、世界遺産委員会が具体的に取り得る唯一にして最大の手段である。
Q.誰が行くのか?
A.世界遺産センター及び各諮問機関。具体的には、世界遺産センターの担当職員・各諮問機関の専門家・地域事務所・ユネスコの他セクション・他学術団体。
しかし、このリアクティブ・モニタリングは有効に機能しているわけではなかった...
理由
- 毎年世界遺産委員会の議決に基づく必要があるため、実施時期が限られ、年一回いしか実施することができない。
- 資産所有国が非協力的な場合は、円滑な調査ができない。
・上記の問題を受け、2007年、強化モニタリングが導入。
Q.強化モニタリングとは?
A.委員会の議決なしに事務局が現地調査の必要性を判断できるもの。
・2010年前後は、危機遺産リスト入りの「代替策」としてケースが多かった。
※現地調査の結果レポートには質的な差があることは明らかで、ここに限られた時間で他国の状況を評価することの根本的な難しさが表れている。
定期報告
・条約履行の信頼性を強化。また、資産の長期的な保全を効率よく行う。
・全世界の情報を集約し、各々の地域の課題を抽出する。
定期報告の課題
- 地域ごとの課題を全体で取り組むべきである。
- 調査結果を、資産の保全・活用に活かすべきだ。
管理計画
・資産の在り方も様々であるため、真に「適切な管理」は何であるかを議論するのは「至難の業」である。
・管理計画は、国ごとに「仕組み」が存在することが重要で、それが文書化されていなければならない。
→これは、世界遺産を書類で審査しなければならないことにも関係する。
・管理計画は、「誰のための計画か」を明瞭に意識して作業を進める必要がある。そうでなければ、中途半端な形になってしまう。
管理計画の特徴
・管理計画は、推薦書と表裏一体のものだ。
・現在は、推薦書本体は簡潔に、しかし管理計画は詳細に調整する必要がある。
・管理計画は、遺産全体の計画と、個々の資産の計画を策定しなければならない。
・管理計画策定の過程で、様々な文化財保護のヒントを与えてくれるものだと考えている。
危機遺産
・危機遺産リストへの記述は、世界遺産リストのそれに比べると非常に具体的である。
→これこそが世界遺産制度の中核だから
しかし、機能していないのが現状....Why?
- 当該国の抵抗
- 世界遺産委員会として実行力のある保護策を取ることが困難
※本来、危機遺産にする際に当該国の同意は不要とされるが、国と国との議論の間で、その国が反発しているような内容を敢えて決議するという動機付けは強くない。
・世界遺産制度が今後も重要な地位を占めることができるか否かは、この危機遺産を再び機能させることができるかにかかっている。
・日本では、国連の言うことは「国内法」と同じレベルの義務であると受け止められているが、海外では必ずしもそうではない。
→では、なぜ世界遺産制度がここまで力を有するようになったのか?
- 規制的側面が強い指定制度
- 「リストアップ」に重きを置く登録制度
- 社会的認知を受けている
ギャップの原因
- 推薦課程や保存・管理に関する構造的要因
- どのように価値が認識、評価されるのかという定性的問題
解決策は...?
- 推薦書の作成及び資産の保全に関する能力育成を促進
- 締約国各国で暫定リスト一覧表の作成を強めること
現行のグローバル・ストラテジーの目的
- 締約国を増やす
- 各締約国の暫定リスト一覧表を整える
- 十分反映されていなかった地域・分野の推薦を促進する
アップストリーム・プロセス
・ある資産を世界遺産として推薦しようとする取り組みのごく初期の段階から助言機関や世界遺産センターとの対話を重ねることによって推薦書を完成させること。
課題
・本格導入の場合、費用負担はどれが行うのか?(先進国と発展途上国とで同じ負担をさせるのか)
・十分な対話を行うことができないという時間的制約。
※アップストリーム・プロセスは、対象資産の記載をは保証するものではないことに注意。
世界遺産の「新しい類型」
・特定の資産が世界遺産一覧表に記載されるための理論的背景として、テーマ別研究が
活用されるケースがあげられる。
シリアル・ノミネーション
- 資産全体としてのOUV
- 各構成資産がどのように全体のOUVに貢献しているのか
- 各構成資産間の関係性
※個々の資産にOUVを求められているわけではない。
※複数の行生組織にまたがる場合は、構成資産間の保存・管理について調整する機能を持つ組織を立ち上げることが有効。